尿失禁
(にょうしっきん)
膀胱に尿がたまると「おしっこがしたい」という信号が脳に伝わり、脳が「排尿」か「我慢(ためる)」かを判断します。尿もれ(尿失禁)は、何らかの理由でこれらがうまく機能せず、自分の意志とは関係なく尿がもれてしまう状態です。
中高年の女性に多い尿もれ
3つのタイプ
① オシッコの間隔が短く、尿意を催すと我慢ができず下着を濡らしてしまう「切迫性尿失禁」
② 咳やクシャミ、スポーツの時などに尿が漏れてしまう「腹圧性尿失禁」
③ これらがいずれもみられる「混合性尿失禁」
尿もれ(尿失禁)のタイプ
腹圧性尿失禁
強い腹圧がかかったときに失禁する状態で、骨盤底がゆるんで尿道が下がりやすくなっていたり(子宮脱や膀胱瘤に合併することも多くあります)、尿道括約筋という尿の出口を締める筋肉に不具合があったりする場合に生じます。尿もれが出る動作は、咳やくしゃみ、重いものを持ち上げる、走る、などです。たいていの患者さんがどんなときに尿がもれるか知っていて、失禁を予測できるのがこの病態の特徴です。
治療は、尿もれシート1枚で1日中もつ程度であれば抗コリン剤などの薬で良くなることもあります。しかし、子宮や膀胱が一緒に下垂している場合や立ち座りのたびにもれたりする場合は、膀胱や尿道を元の位置にもどして下がらないようにしてやることが治療の要であって、手術が必要となります。
40歳以上の女性の約3割がこの病気を抱えていると言われ、尿道を締める役割を果たす、膀胱や尿道、子宮を支える骨盤底筋という筋肉が、妊娠・出産によってゆるんだり切れたりしてしまう場合があります。また更年期 、女性ホルモン・エストロゲンの減少によって筋肉が弱くなることや、女性に多い便秘や冷え性も原因になることがあります。
切迫性尿失禁
過活動膀胱は、自分の意思とは関係なく膀胱が勝手に過敏に収縮し、尿が充分溜まっていないうちに急な尿意を起こす病気で、頻尿や尿意切迫感、症状が酷いと切迫性尿失禁を誘発します。トイレに行く回数が異常に増えたり、尿意を感じると我慢するのがつらく、ときにはトイレに間に合わなくて漏らしてしまうこともあります。日本人の40歳以上の女性、およそ10人に1人が過活動膀胱の症状を経験し、この中で半分の方は切迫性尿失禁を経験しています。
過活動膀胱の原因として、脳と膀胱(尿道)を結ぶ神経のトラブルで起こる「神経因性」のものと、それ以外の原因で起こる「非神経因性」のものがあります。
1.神経因性過活動膀胱(神経のトラブルが原因)
脳卒中や脳梗塞などの脳血管障害、パーキンソン病などの脳の障害、脊髄損傷や多発性硬化症などの脊髄の障害の後遺症により、脳と膀胱(尿道)の筋肉を結ぶ神経の回路に障害が起きると、「膀胱に尿がたまったよ」「まだ出してはいけないよ」「もう出していいよ」「膀胱を緩めるよ(締めるよ)」「尿道を締めるよ(緩めるよ)」といった信号のやりとりが正常に働かなくなります。その結果、膀胱に尿が少ししかたまっていなくても尿を出そうとしたり、「締める」「緩める」の連携がうまく働かなかったりして、過活動膀胱の症状が出るのです。
2.非神経因性過活動膀胱(神経トラブルとは関係ない原因)
骨盤底筋のトラブル
女性の場合、加齢や出産によって、膀胱・子宮・尿道などを支えている骨盤底筋が弱くなったり傷んだりすることがあります。そのために排尿のメカニズムがうまくはたらかなくなり、過活動膀胱が起こります。
それ以外の原因
上記以外の何らかの原因で膀胱の神経が過敏にはたらいてしまう場合や、原因が特定できない場合もあります。いくつかの原因が複雑にからみあっていると考えられています。この原因の特定できないものや加齢によるものが、実際には最も多く存在しています。
混合性尿失禁
切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁が混在する状態です。当院を受診される患者さんではこのタイプが一番多いですが、同じ混合性でも切迫性メインの人も腹圧性メインの人もあり、患者さんごとに最適な治療は異なります。詳細に問診をとって、どのように治療を組み合わせていくか、判断します。
女性の尿もれ・尿失禁の診断と治療法
診断方法
診察ではまず問診を行います。その後、尿検査や超音波検査・レントゲン検査などの簡単な検査を行うこともあります。必要に応じて詳細な検査が行われる場合もあります。
治療法
切迫性尿失禁
治療は抗コリン剤という薬の内服が主体ですが、ライフスタイルの見直しや飲水調節、膀胱訓練(少しずつ尿を我慢して、ためるようにする訓練)、骨盤底筋体操も効果的です。また薬物療法では膀胱の収縮を抑制する薬を服用します。多くの場合、これらの治療で改善が見込まれ、手術を行うことはほとんどありません。
腹圧性尿失禁
生活面での指導
腹圧性尿失禁は肥満、便秘、飲水過多なども原因になることから、それらについての改善指導を行います。
骨盤底筋体操
腹圧性尿失禁のおもな原因は尿道や膀胱を支える骨盤底筋のゆるみですから、この筋肉をきたえる「骨盤底筋体操」を行うことが最大の治療法となります。
身体を動かしているときに尿もれを起こす程度であれば、体操を続けて1~3カ月ほどで効果が現れ、約8~9割の方に改善が見込めます。(※切迫性尿失禁にも効果があります。)
骨盤底筋体操の方法
1.膣や肛門の筋肉を10秒ほど引き締めます。
2.緩めて10秒ほどリラックスしましょう。
3.1~2のセットを10回繰り返します。
※上記を1日に5回行います。
あお向けの姿勢 、四つ這いの姿勢、椅子に座った姿勢、
机を支えにした姿勢など様々な姿勢で行えます。
膀胱訓練
尿もれを気にするあまり、膀胱に少ししか尿がたまっていないのにトイレへ行くことを繰り返していると、膀胱が小さくなったり過敏になったりしてしまいます。そこでトイレへ行くことを我慢し、膀胱に尿をためるよう訓練することで、改善が見込めます。
最初は5分ほど我慢することから始め、少しずつ時間を延ばしていきます。(※切迫性尿失禁にも効果があります。)
薬物療法
膀胱の緊張を緩めて、尿道の締まりを良くする薬を服用します。
手術療法
体操や薬物療法では効果が出ない場合、症状が重い場合は手術を行います。
当院で主に行っている尿失禁根治術は、TVT-O(TOT)という手術です。英語からの直訳は「ピンと張っていないテープ」という意味です。
膣壁を約2cm切開して、中部尿道にポリプロピレン製のメッシュテープを添え、尿道の中ほどをハンモックのように支えてやります。このテープが急な腹圧時に尿道が下降するのを防ぎ、尿失禁を止めてくれるのです。
もともとのTVTは恥骨の上あたりの腹部から尿道を吊り上げる術式なのですが、これだと一定の頻度で膀胱を傷つけてしまったり、まれに腸管を損傷してしまうこともあるため、より安全性の高い術式として、閉鎖孔という骨盤骨の穴を通してテープをわたす方法が生まれました。
これがTVT-O(Oは閉鎖孔の意味)で、現在広く行われるようになってきています。もちろん保険適応の手術で、TVT-O単独の入院期間は2泊3日、費用は3割負担の方で115,000円程度です。